二兎を追うのは当たり前。授業と社会を行き来するミネルバ大学 学生流の学び

 

こんにちは、片山晴菜です。

前回の記事で、ミネルバ大学では“スキル”を学ぶにあたって、授業や研究課題にも他のスキルと合わせて歯車式に繰り返し応用することで、概念自体の正しい理解を深めることはもちろん、スキルの活用法を学んでいくという風に説明しました。

このスキルというのは100以上に体系化されていて、HC(HC=Habits of Mind and Foundational Concepts:思考習慣と基礎概念)と呼ばれています。それぞれのHCは大きく4つの技能(批判的思考力、創造力、コミュニケーション能力、インタラクション能力)に振り分けられており、ミネルバの学生はみな、入学後一年かけて 将来どの分野でも幅広く応用できる基礎となる力を養います。

「どのように知識を習得するか」に焦点を置いて開発されたミネルバの学びの柱であるHCですが、とても抽象的な概念であるゆえに、具体例なしでは想像しにくいかと思います。そこで今回はHC群の中でも非常に汎用性の高い「問題解決」の概要を説明した上で、それらが実社会の課題を紐解くのに どう応用可能かということを、先日参加したハッカソンでの具体例を交えて説明します。

【理論】ミネルバ式問題解決ユニットとは

先述の通り、HCは大きく4つの技能に振り分けられており、これから紹介する問題解決HCは創造力を養うEmpirical Analyses(実証分析)という科目に属しています。Empirical Analysesでは自然科学と社会科学の学問で用いられる主な研究手法を学ぶことを通して、効果的な問題設計や仮説の発展と実験におけるアプローチ、データの分析とそれに基づいた推測の仕方を身につけます。

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入学して一番初めに学んだユニットが「問題解決」でした。このユニットではサンフランシスコに密着した以下の2つの大きな社会課題を元に問題解決の手法を学びます

  • Increase food security for low-income San Francisco residents(サンフランシスコに住む低所得居住者の食料保障を向上せよ)
  • Create a city-wide plan to increase preparedness for the next California drought(次のカルフォルニア干ばつに備えるための市の計画をデザインせよ)

このユニットで習得するHCは更に細分化され、問題分析と問題解決の二つの要素から成り立っています。他のユニットや科目で学ぶデザイン思考やゲームセオリーもこの要素に分類されており、実際には科目の枠組みを越えて問題解決に取り組みます。

問題解決ユニットで紹介されるHCの一部は以下の通りです。

問題分析(Problem Analysis

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問題解決(Problem Solving

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【実践】HCスキルのハッカソンでの応用例

さて、上記の呪文のようなHCは実際にどう使われていて、どういった実社会の課題に応用可能なのでしょうか。

つい2週間ほど前、UCバークレーで開催されたマーケティングのハッカソン(広義に、チームがイベントの主題に対してアイディアを提案する大会一般を指す)にチームと参加しました。

カリフォルニアをベースに豆腐や湯葉の販売をアメリカ全土で展開する企業(HODO SOY)から出されたハッカソンの課題は「マーケティングを通して、従来の顧客層と新規消費者層の双方から新しい豆腐の支持者を獲得する」

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HODO SOYの創設者にミネルバ大学の仕組みについて説明するチーム
Photo credit to FoodInno

実際には複数のHCを組み合わせて解決法を模索していくのですが、ここでは#gapanalysisに焦点を置きます。#gapanalysisでは以下のステップに沿って問題の分析を進めます

  1. 課題の現状とゴールを把握し、その差を明確にする
  2. 差を埋めるための方法を模索するのに
    1.  既存の取り組みを調べる(他の企業・業界による同様の課題の成功事例を含む)
    2. それらを評価し、新たな解決法が必要かを見定める

実際のハッカソンでも、チームは#gapanalysisの思考過程に倣い、マーケティングの戦略を立てました。以下がその流れです。

  1. 課題の現状とゴールを把握し、その差を明確にする

ゴール:従来の顧客層と新規消費者層の双方から新しい豆腐の支持者を獲得する

現状

アメリカ全土における現在の豆腐の主な消費者

  • ビーガンらの菜食主義者
  • 高級料理店のシェフや美食家・健康意識が高い個人
  • 東〜東南アジア系の移民

上記の既存の顧客に加え、ターゲットにしたい顧客層

  • 豆腐にあまり詳しくない消費者
    • 今まで豆腐を食べる機会がなく、豆腐の味や調理法を知らない
    • 菜食主義者向けの肉の代替品として豆腐を認識している
    • 豆腐と接する機会が少ない、印象に残りづらい
  • 今後の食のトレンドを牽引するミレニアム世代(1980年代〜2000年代初頭までに生まれた人)
    • 豆腐は東〜東南アジア移民向けで、流行遅れと考えられている
    • 周りに豆腐を食べている人物がいない

現状とゴールの差

① 今まで豆腐を食べる機会がなかった消費者に、豆腐の魅力と調理法を知ってもらう

② 菜食主義者向けの肉の代替品として、または東〜東南アジア圏の食材として“のみ”の豆腐のイメージを打破する

③ 豆腐と接する機会を増やす、またその際に印象を残る仕掛けをする

④ 豆腐=スタイリッシュというイメージを浸透させる

 

  1. 差を埋めるための方法を模索する

a. 既存の取り組みを調べる(他の企業・業界による同様の課題の成功事例を含む)

HODO SOYが既に行っている取り組み

  • 電子レンジで調理ができる湯葉パスタや豆腐カレーナゲット等加工食品の販売
  • サンフランシスコ市内の数々のレストランに出荷
  • Costcoなど大手スーパーやファーマーズマーケット等での商品の販売及び試食の実施
  • SNS(Facebook, Instagram)アカウントの活用
  • 有名レストランとの共同レシピ開発
  • 自社ウェブサイトでの多国籍豆腐レシピの公開

他社のマーケティング成功例

  • BOBA GUYS(カリフォルニア拠点のタピオカティーショップ)
    • 南アメリカで定番のドリンク(Horchata)フレーバーのタピオカティーを開発するなどを通して、タピオカティー=東〜東南アジア圏の飲み物という固定概念を打破。結果、国籍や民族にとらわれない幅広い顧客数を獲得
    • 記憶に残るキャッチフレーズやハッシュタグの創出
    • あるテーマを元に画一化されたソーシャルマーケティング
    • ブランド独自のマスコットキャラクターと関連商品の販売(アパレル、バッグ、水筒等)
  • 男前豆腐店(http://otokomae.jp/
    • 一目でわかる他社と異なるパッケージング
    • 豆腐レシピを動画で配信
    • 記憶に残るキャッチフレーズの創出(例:“本物の男前はあなたを裏切ったりしない”)
    • ブランド関連商品(アパレル、タオル)の販売

 

b. 既存の取り組みの評価と解決法の創出

  • 自社ウェブサイトでの多国籍豆腐レシピの公開をしているものの、消費者の目に留まりにくい

 → 男前豆腐店のように豆腐レシピを動画で配信する。消費者の目に留まりやすいようSNS上で主に展開する。SNSデハリズム感が重視されるため、動画は1分以内に短くしたものを使う(イメージ:Tastyビデオ)[①, ②]

  • 各地で商品が販売されているものの、自社製品として消費者の記憶に残りにくい

 → 企業ロゴに使用されている大豆の形を元にブランドのマスコットを作成。消費者の一人一人が特定のマスコットに愛着を持てるように、異なる性格を保有するマスコットをデザイン (e.x. 筋トレをする大豆:プロテイン価の高さもアピール)。またマスコットごとにキャッチフレーズを考案し、消費者の記憶に残るようにする [①, ②, ③]

 → マスコットを使用したブランドの関連商品も併せて販売する。特定のブランドに対する買い込み(支援)を通して、消費者に企業間との強いコネクションを感じてもらう [③]

 → 関連商品を日常的に使用してもらうことでブランドの露出が増え、間接的にブランドの印象付けも可能。

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マスコット導入の提案に試作として開発された“HODO”。彼は育ちの良い“Good bean”の設定
  • SNS(Facebook, Instagram)アカウントはあるものの、統一感がない。また、更新も頻繁でなく、SNSの利点を最大限に活用しきれていない。

→ 洗練されたタイムラインの作成を通してブランドイメージを強化する [④]

 → BOBA GUYSのように商品だけでなく、企業の商品を消費する人々のライフスタイルも共有することで、企業と消費者が一緒になって商品を作り上げている雰囲気を創出する [①, ③, ④]

        → 舞台裏(豆腐の製造過程や従業員について)を共有し、企業の哲学も宣伝する [③]

 → Instagramのストーリー機能を活用し、消費者が企業及び豆腐との接点を日常的に持てるようにする。創設者とのQ&Aライブセッションを開催することでブランドに近親感を持ってもらえるように働きかけ、不定期のGive-awayキャンペーン(アカウントをフォローした上でコメント欄に友人をタグ付けした人物のうち1〜5人が企業の商品を獲得するキャンペーン。これにより情報が加速度的に広まる)を開催することでブランドと商品の承認を急速に広めることができる [③]

 → フードブロガーや、フィットネスモデル、ミレニアム世代の間で有名なインフルエンサーと提携する。この際に、ジェンダーや民族等が偏らないよう 多様な人材を起用する。[①, ②, ③, ④]

                       → 菜食主義者のボクサー等を通して、既存の顧客層の支持も強化、拡大

 

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ミネルバ大学の学生が普段どういったことを学んでおり、それが授業外での社会における課題にいかに応用ができるか、ということを少しでも分かっていただけたでしょうか。私も含め、ほとんどのチームメイトにとっては初めてのハッカソンではありましたが、3位入賞という結果に終わり、マーケティングを専門に専攻している他大学の学生や既にその分野で働いている参加者もいた中で、1位と2位もミネルバが独占する結果になりました。

 

今回は規模の小さな大会でしたが、私のルームメイトのようにサムスンのハッカソンで優勝しニューヨーク行きの切符を獲得したり、シンガポール航空の主催するハッカソンに参加し 優勝旗をはるばるシンガポールから持って帰ってきたりしている学生もいます。また、ハッカソンに限らず大学生活を送ると同時に、自分の経営している会社や団体の活動に従事したり、企業のマーケテングインターンとして働いたりしている学生も少なくありません。もちろん課題の多いスケジュールの中で時間の管理は簡単ではありませんが、授業で学習することが学外のプロジェクトで実際に活用できることを実感することで、より一層意欲的に授業に参加するようになる、ポジティブフィードバックループが生まれます。

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先週開催されたFriends Giving Feast。ミネルバの学生の大半が留学生であるためサンクスギビングを家族で過ごすことはないが、こうして学生とスタッフが集って大きな家族として祝福した
Photo credit to Stella Odiwuor

学業の他にすることがあると学業の妨げになるのでは無いか、という考えもあると思います。しかし、自分がなぜ特定の事柄について学んでいるのか、そしてそれが実際に社会でどのように応用できるのか、といった繋がりを理解する機会を通して、学生はより学業にのめり込んでいくことができると信じています。

 

では、また次回。

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