オンラインで授業をするミネルバ大学がなぜオフラインの活動に力を入れるのか:体験学習と産学連携

お久しぶりです、片山晴菜です。

「世界最難関」や「最新エドテック」といった見出しで知られることが多いミネルバ大学ですが、学問にこそ現れる大学の真の魅力を前回の記事で紹介しました。今回は私の入学の決め手の一つとなった、もう一つの「オフライン」の魅力について紹介します。


ご存知の方もいる通り、ミネルバの学生は世界7都市を廻りながら寮で共同生活をします。オンラインで授業をするのにも関わらず、なぜその都市に住む必要があるのか。

もちろん、グローバルローテーションはその土地固有の文化を肌身で感じたり、現地に根ざす問題をその土地に住むものとして当事者意識を持って学習したりするのが目的です。しかし、それだけでは自分の選出した都市に一定期間移住するのと、変わりありません。では、ミネルバの指定する都市に指定された期間住むことの意義とは一体なんでしょう。

体験学習と産学連携を実現する専門の部署, “Student Experience Team”

ゼミごとや学部ごとにワークショップを行う大学は珍しくないでしょう。しかし、ミネルバでは授業外の全ての学びと成長の機会を管轄する部署、Student Experience Team(通称SXP)があり、社会のトレンドや学生の声に耳を傾けながら、先導して機会の創出を行います。これはミネルバのスタッフがそれぞれの都市に実際に住んだ上で、ミネルバのコネクションを最大限に活用するからこそ享受できる機会であって、脈略もなく独りで世界の都市に移り住んでも同じ経験はできないでしょう。もちろん、SXPで働くミネルバの職員はそのためだけに雇われており、他の仕事を掛け持ちしないため、授業外での学びの機会の創出が軽視されることはありません。

ミネルバが取り組む実践型の学びは4つのカテゴリーに分かれています。

  1. Exposure: 毎週ゲストスピーカーを呼ぶなどミネルバ主催のイベントを通して、新しい人脈と土地を開拓し、その都市特有の物事の捉え方に触れる
  2. Engagement: SXPが現地企業及び団体と連携して開発した“Co-curricular programs: 半日のチームプログラム”を通して、オフラインの現場でHCスキル(前回記事参照)を組み合わせて活用し日々の学びと実社会の問題に対する理解を深める
  3. Immersion: 獲得したコネクションを活用し、ボランティアやメンターシップなど継続的な社会との関わりを通じてより豊かな知見を身につけると同時に、関心のある事柄に対する理解を深める。 学習したスキルを街の文脈に適用するLocation-based Assignment(参照)も同様。
  4. Impact: 現地の企業及び団体が抱える特定の課題を1学期かけてチームで解決し、実際にインパクトを計ることのできる解決策を提示する(Civic Project)

What I’ve Learnedというイベントでは毎週様々なジャンルで活躍する人物を招待する。写真は Teach For All のCEO/Co-Founder及びTeach for Americaの創設者、Wendy Kopp氏を招いて彼女の大学在学中の資金調達経験やNPOとしての職員への投資の姿勢について話を聞いた回

Project-based learningを行うにしても単発の 半日プログラムのみを提供するのではなく、そこでの学びやコネクションをステップ3+4や自主的な取り組みに生かしていくことで「よかったね」だけでは終わらない学習の機会を提供しています。

例えば、幼い頃は一日中仮想の都市構想図を描いて過ごしていたというある同級生は、Facebookの本社等の建築などを手がける世界的な建築デザイン会社、Genslerが開催したCo-curricularに参加しました。Co-curricularはPark(ing) Dayと言って世界中で駐車場を1日だけ仮設の公園に作り変える日に行われ、学生は憩いの場の建築がどのように市民の行動をデザインするかを実際に学びました。Genslerのオフィスではメディアや顧客には公開していない資料を見ながら、デザインでの思考プロセスについて触れました。その後、社員への自主的なインタビューを通して、パフォーマンス向上のためにGenslerがどのように組織形態やリーダーシップスタイルを設計しているかを学び、企業と建築設計業界への理解を深めました。現在、彼はチームメイトと共に「人との関わりを想定せずに設計される高速道路を、コミュニティを分断するものではなく人々を繋ぐ都市の一部として機能させるにはどうすれば良いか」というGenslerのCivic Projectに携わっています。

実例から紐解くCivic Projectの成果

Co-curricularが半日の問題解決プログラムである一方で、Civic ProjectではCivic partnerと共に、1学期間 継続的に取り組みます。日々の授業で学ぶHCスキルを応用し、物事を新しい枠組みから見ることで革新的な打開策を提示するのが目標です。とはいえ4ヶ月間の限られた期間で、学生は実際にどういったインパクトを残しているでしょうか。

Class of 2019(2019年度卒業生、一期生に当たる)がベルリンに行った2016年は、ちょうどドイツが100万人規模の移民を受け入れた一年後でした。その移民が高等教育を受けられる確率は、たった1%未満と言われています。ベルリンに拠点を置く教育団体、Kironではパートナー提携を結んだ教育機関が提供するオンラインのコース(MOOcs)を2年間受講し試験を受ける仕組みを作ることで、Kironで取得した単位を使用して移民が大学に編入できる機会を創出しています。一方で、Kironには「オンラインコースの修了率が低い」といった課題がありました。

そこで、Class of 2019の8人で構成された学生チームはHCスキルを活用したり実際の利用者やKironの職員から話を聞いたりしながら、課題の原因を以下の点に特定しました

  1. MOOCsに慣れていないため使い方が分かっていない
  2. 優先順位づけと目標設定を自分一人でするのが難しい
  3. 指定の学習環境がない
  4. 安定した学生同士のコミュニティが形成されていない
  5. MOOCsの有用性が軽視されている

その上で移民の学生が円滑にKironでの新しい学習方法に適応できるように、オンラインコミュニティの説明からタイムマネジメントのコツ等をまとめた5つの問題点を解決する、4つのチャプターから成る入門コースを作りました。当Civic Projectに参画したTannaによると、入門コースのスクリプト作成にあたっては利用者やKiron職員から繰り返しフィードバックを受け、 2〜3週間の間は週末全てを映像製作に費やし、朝から夜までスタジオにこもったと言います。ベルリンに来てから一ヶ月という速さで映像の編集までを完了させる事ができたのも、1年目で問題解決やデザインのノウハウを身につけたからこそだと思います。

この取り組みはKironの利用者とEdX(Kironが選択したMOOCsのプラットフォームを提供する企業)の社員から高い評価を受け、彼女たちの製作したコースは新しくKironで授業を受講する学生にとって必修科目となりました。このリンクからコースビデオを確認できます。この取り組みが移民コース修了率の向上に繋がったかどうか、効果の検証が待たれるところです。

他にも、同クラスがブエノスアイレスに滞在した際には、唯一の学生コンサルタントチームとしてアルゼンチンの文化的なネットワークを拡大するための政策を文化省に提言しました。その延長にそのうち一人のミネルバの学生は文化省の情報・統計課で同年夏よりインターンとして、効率的で正確なデータの分析を通して省職員の意思決定を促進させるツールを開発しています。

Foundation Yearとされる1年目のサンフランシスコでは、限られた人数の学生のみがCivic Partenerとプロジェクトを進めています。ちなみに私は国際開発を専門とする戦略コンサルティング企業、Dalbergが新しい経営戦略の一つとして米国内の課題に重きをおくにあたって、サンフランシスコ市内特有の食料保障のアセスメントをしています。都市の性格分析をしたり、SF Food Security Task Forceのメンバーや実際に食料配給サービスを受ける市民にヒアリングしたりする段階が終わり、現在は今月中旬の提言に向けて戦略のデザインをしています。

コミュニティの発展と学生の学びを促進させるSXP職員の努力

SXPは都市と学生を繋ぐだけではなく、学生同士を繋ぐ役割もあります。半年ずつ新しい都市に移り住むことから他学年と一緒に生活することがないミネルバだけに、行事やコミュニティイベントを通した学校の伝統の形成もSXPがサポートしてくれています。
各学生が一人ずつ自分の辿ってきた人生について語るMinerva Talkや、出身国・宗教・性的指向等について学生本人が紹介する“10:01”(テン・オー・ワン)等、毎週開催されるイベントもありますが、特徴的なのは年に4回あるFeast。この記事のサムネイル画像のQuinquatriaという春の祭典や、前回記事に写真を掲載したFriends Givingもその一部です。個人的に印象深かったのはオリエンテーションウィークに行ったFoundation Feast。アイマスクを装着するように言われ、一列になって前の人物の肩に手を置き、お互いを頼りに真っ暗な部屋へと進みました。何も見えない中、待っていたのはビーガンの食事。アイマスクを外すことなく、そのまま食事をしました。

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Foundation Feastで暗室に入る前。何が起こるか知らされずに、アイマスクを装着し整列している。

何も見えない空間で食べ物を手に取り、容姿すら認識していない新しい同級生と暗闇の中で話す行為は、先入観に左右されず自分の感覚に正直に大学生活を導いていってほしいというメッセージが隠されていたように思えます。このように、SXPが先導するミネルバの年中行事は、定期的に学生生活を俯瞰し、この先の学生生活を能動的にデザインするのにも役立っています。

成功を収めるCivic Projectやコミュニティイベントの舞台裏には、SXP職員の、職務内容が求める以上の学生に対する熱量とコミットメントがあります。例えば、毎週ゲストスピーカーを招いて様々な人物のキャリアについて話を聞く“What I’ve Learned”(通称WIL)というイベントがあり、もともと興味のなかった分野で働くスピーカーの話も、聞いて見たら面白かったということも多々あります。しかし、学生にとって馴染みのないスピーカーや縁遠い分野だと学生の足が遠のき兼ねません。また、ゲストの人生観を一から知ろうと思うと、表面的で一方的な説明に時間が費やされてしまい、聞きたいことを深掘りする時間が足りなくなってしまいます。そこで、あるSXP職員は事前にスピーカーと会い、自分で作った食事を一緒に食べながらゲストの過去のイベントや人生観について話し合う動画をWIL前に公開しました。これは完全にボランティアの仕事ですが、30分程度の動画を通じて、WIL当日に学生がより多くの時間をゲストとの交流に充てることができました。また、動画内ではLinkedIn等や企業HPのバイオでは語られていない、スピーカーのパーソナルな事柄にも触れるため、共通点などを見つけると個人的な思い入れができて、もともと特別興味のなかった学生の参加率の向上にも繋がりました。

他にも、毎週学生一人ひとりがそれぞれの過去を共有するイベントに話し手として参加し、どんな質問にも公明正大に答える姿からはなんでも話せる信頼関係が垣間見えた上、Residential Tutorでもないのに 時たま作った料理やお菓子を寮に持ってきて学生に提供してくれるような一面からは、学生に対する日頃からの配慮が見て取れます。

体験学習、PBL、産学連携といった言葉がバズワードになり、あらゆる教育機関が実践しています。その中でミネルバが成功を収めているのは、主体性に富んだ学生がいるから、というのも理由の一つかもしれません。しかし、その起因はネットワークを最大限に活用した段階別のプログラムと、学生の「やりたい」を引き出すSXP職員の圧倒的な情熱とコミットメントに由来していると思います。ミネルバ大学は、オンライン大学ではありません。社会に出る際に、オンラインの授業で身に付けた問題解決スキルを駆使し、社会問題や研究開発に邁進していく。オフラインの活動は学生が近い未来それを実現させるための架け橋となっています。

2 replies on “ オンラインで授業をするミネルバ大学がなぜオフラインの活動に力を入れるのか:体験学習と産学連携 ”
  1. はじめまして。私立高校の教員をしております。楽しく読ませていただきました。

    私が日本以外の教育に興味を持ち始めたのは、ある生徒が「将来、何にもしたくない。面白くなさそうやもん。」と言ったことがきっかけでした。

    それ以来、どうしたら「外」に目が向かない高校生に「外」に興味を持ってもらい、どうせなら「外」に飛び出す勇気を持ってもらえるか、ばかり考えるようになりました。

    片山さんは、お若いのにいろいろな経験を得て意思決定をされ、またそれを発信していらっしゃいます。多くの方が、片山さんに「どうしたら…」と相談されるのも納得です。

    これからもミネルバの情報はもちろん、多くの経験を紹介していただけるのを楽しみにしております。お身体に気を付けて、大学生活を満喫なさってくださいね!

  2. 一連のブログを拝読させて頂きました。

    昨年まで総合商社で海外を飛び回っていましたが、現在は「教育の力で、世界から争いをなくす」という志を抱き、VRスタートアップに関わる傍ら、教育分野で主に活動しています。片山さんも、校外コミュニティーの重要性について書かれていましたが、中高生の校外コミュニティーを築く活動も行なっています。
    正に、文化の異なる10代の子達同士が協働しながら学べる空間を作りたいと考えていたので、ミネルバ大学は自分の理想にとても近く、ブログを読んでいてワクワクしました。

    秋開催なので難しいかもしれませんが、Edvation Summitは、国内外から様々な立場の人々が参加し、教育について語り合うイベントで、昨年参加した際には大きな刺激を受けました(既にご存知かもしれませんが)。
    https://www.edvationxsummit.jp/en

    もしお会いできた際には、是非お話を聞かせてください。
    これからも、片山さんの発信を楽しみにしています。

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