在校生の視点から語る、教育ビジネスの文脈におけるミネルバ大学

お久しぶりです、片山晴菜です。

 

昨年 夏にミネルバ大学及びMinerva Projectに関する非公式書籍が出版されたこともあり、2018年下半期は色々な場所でミネルバ大学についてお話する機会を頂きました。そのため、ブログでの情報発信はしていませんでしたが、2年目のソウル・ハイデラバード(インド)での生活を終え、国内のメディアで取りあげられていないミネルバの内情をお話できるようになったので、また不定期に更新していきます。

私がミネルバに進学する以前からアウトリーチ活動をしてくださっていた元日本地域進学支援担当 山本秀樹さんの功績のおかげで、「ミネルバ大学に進学したい」「ミネルバ大学の学びを学校/企業の研修カリキュラムに取り入れたい」といった声を多く耳にしています。ミネルバ大学の認知度は向上しましたが、ではどれほどの方がミネルバ大学の母体あるMinerva Project、またそのビジネスモデルについてご存知でしょうか。

以前の記事でご紹介した、ミネルバの教室とも言える Minerva Forum(オンラインプラットフォーム)が改良され、大教室向けに400人まで収容できるようになったことを受けて、Minerva Project のこれからのビジネスの展開について、把握している範囲でお伝えできればと思います。

 

そもそも、Minerva Projectとは?

私のブログ以外でミネルバ大学にまつわる情報をご覧になったことが無い方は、ミネルバ大学を単なる教育機関だと理解されてる方もいらっしゃるかと思います。ですが 実際のところ、2019年7月時点でミネルバ大学は「Minerva Project(非上場企業)の非営利組織」という位置付けです。

CEOのベン・ネルソン率いるMinerva Projectは2012年に、サンフランシスコの少数精鋭VC、Benchmark Capitalから当時の額で2500万米ドル(現在の日本円換算でおよそ30億円弱)を調達しました。ちなみに、これはBenchmark Capitalがシード期に行った投資としては当時最高額の案件と報じられました(参照:Tech Crunch, 2012)。

2012年に公布されたMinerva Projectのプレスリリースを読むと、Minerva Projectは自らを大学と定義していたことが分かります。当初はビジネスとしての展開を考えていなかったようですが、現在では、Minerva Projectは独自に開発した(1)教育法(2)カリキュラム(3)オンラインプラットフォームの知的及び技術独占権を保有していて、教育機関や企業とライセンス契約を結ぶことで収益をあげるビジネスモデルを掲げています。

最近ではByteDanceを筆頭とした出資者から、シリーズCの投資で5700万米ドル(約60億)を調達し、今日に至るまで合計で約1.4億米ドルを調達してきました。2019年7月時点で、Minerva Project の取締役会には、以下の人物が名を連ねています。

  • Kevin Harvey, Benchmark Capital 共同創設者兼ゼネラルパートナー
  • Philip Lader, WPP 元会長
  • Ben Nelson, Minerva Project 創設者/会長/CEO
  • Gwynne Shotwell, SpaceX 社長兼CEO
  • Bangxin Zhang, TAL Education Group 創設者兼会長
  • Yiming Zhang, Bytedance 創設者兼CEO
  • Wendy Kopp, Teach For America 創設者, Teach For All 共同創設者兼CEO

Bytedance CEOのZhang Yiming氏はミネルバが学生にもたらす影響を自分の目で確かめるのを非常に大切にしており、サンフランシスコのみならず、冬のソウルにも足を運び、私も彼と話す機会に恵まれました。

ちなみに、元ネブラスカ州知事のボブ・ケリー率いるミネルバ研究所(Minerva Institute for Research and Scholarship, 非営利)はミネルバの学士課程の学生のための奨学金や、Minerva Awardの授与を通した高等教育改革に貢献した研究者への資金援助を行なっています。また、ミネルバ研究所には高等教育の改革促進を目的とした“Minerva Academy”と呼ばれる名誉協会があり、14人の著名作家や研究者、政策立案者が名を連ねています。

 

Minerva Project 事業の根幹

ミネルバプロジェクトが提供しているプログラムは、教育機関向けの“Collegiate Accelerator”と企業における幹部候補生向け研修用の“Leadership Accelerator”に分類されます。どちらも独自に開発した双方向型の授業展開を可能にするオンラインプラットフォーム上で、アクティブラーニングを可能とするための教授法に則った授業のデザインがされている点では、ミネルバ大学の学生が体現している学びと相違ありませんが(*注)、提供されているカリキュラムが異なります。どういったカリキュラムをライセンスとして提供しているか、実際に導入している他の機関にも触れながらご紹介します。

*注釈ミネルバプロジェクトが提供するプログラムは400人規模で授業が受けられるのに対し、ミネルバ大学にて1つの授業に参加できるのは多くて19人までという制約があります。また、ミネルバプロジェクトが提供するプログラムではそれぞれの機関内で講師を用意するのに対して、ミネルバ大学では学部生よりも狭い門を突破した精鋭が教鞭を執っています。

Collegiate Accelerator

ミネルバ大学のカリキュラムの根幹をなす「HC」は、30年超にわたる認知心理学と認知神経科学における研究実績を抱える、元ハーバード社会学部学部長のStephen Kosslynが設計しました。

「Habits of mind and Foundational Concept」(思考習慣と基礎概念、通称HC)は、批判的思考や創造的思考のプロセスで役に立つ認知ツールと基礎概念を約80に及ぶスキルに体系化したものです。ミネルバの学生はこれを1年次に体得し、残りの3年間を通し、繰り返し異なる文脈でスキルを応用することで、意識せずとも認知ツールと基礎概念を使えるように訓練を重ねます。

教育機関向けのプログラム、Collegiate Accelaratorでは、ミネルバ大学の1年次のカリキュラムを再編成した、「HC」に基づく9つのコースを提供しています。

Foundation Courses 

  1. Expressive Clarity
  2. Applied creative and critical thinking
  3. Statistical institutions and applications
  4. Deriving insights from evidence
  5. Evaluating evidence 

Framework Courses

  1. Interpretation, Communication, and Design
  2. Systems and Society
  3. Computational Modeling and Decision Theory
  4. Systems and Strategic leadership 

この他に、上記のコースの導入授業として、二つの Bedrock Courses(Strategic learning and growth, Applied algorithmic thinking )も用意されています。

教育機関は、上記のコースから自身の機関が提供する授業を補完するコースを自由に選んで組み合わせることができます(なお、授業によっては、他の授業を受講しないと履修できないものもあります)。例えば、ミネルバプロジェクトが最も初めにパートナーシップを組んだ香港技科大学では、大学の事前審査に合格した希望学生に対して、上記のうち8つのコースを提供しています。このプログラムの参加には、各学期2コースずつ受講しながら、8つ全てのコースを2年間かけて履修する必要があります。(ちなみに、このパートナーシップにより、ミネルバ大学の学生には、最後の1年間を香港技科大学で過ごし、同大学の講義に参加したり、ラボで卒業研究をしたりする選択肢が提供されています。)

一方で、2017年に開校したばかりのインドの私立大学、SRM University, AP – Amaravatiでは修辞学、統計学に重きを置いた4つのコース(一部 Bedrock Course)を提供しています。

また、Custom degree programsでは、既に教育機関で提供されているコースとミネルバの学びを統合したコースを作成したい場合は、レッスンプランをミネルバと共同開発することも可能なようです。

 

Leadership Accelerator

企業の幹部候補生研修向けに編集された「Leadership Accelerator」では、参加者が実際に直面しているビジネスの文脈を例に取りながら授業を展開します。Leadership Accelaratorのプログラム内容は大きく2つに分かれます。

一つは Managing Complexityと呼ばれる10週間のプログラムで、多様な人材と働く環境において、情報を正しく判断し、効果的かつ効率的に的確なビジネスの意思決定を下すためのスキルを体得します。

もう一方はFocus Coursesと呼ばれるもので、Managing Complexityのカリキュラムが様々なスキルを網羅しているのに対し、ここでは細分化された領域における より複雑なスキルの体得を目標としています。現段階では4つのFocus Coursesが展開されており、ミネルバプロジェクトはManaging Complexity受講後に、より集中的に掘り下げたいテーマのコースを受講することを奨励しています。4つのコースは以下の通りです。

  • Systems Thinking 
  • Behavioral Science for Leadership 
  • Data-Informed Decision-Making 
  • Leading Innovation for Impact

Leadership Accelratorプログラムは、韓国のエレクトロニクス企業にて既に500人規模で実験的に導入されて数ヶ月が経っています。ヨーロッパや南米の企業に加え、日本国内でも先月より某企業が100人規模で導入しています。

高まりを見せる産業界のニーズは、ミネルバ大学が教えている「複雑な課題の本質を正しく整理し、効果的な分析と協働作業を通して解決に導く」スキルが実社会で必要とされていることを物語っています。

 

今後の展開とミネルバ大学の差別化

ミネルバ大学の正式名称は「Minerva Schools at KGI」で、ポモナ大学等が属するクレアモント大学群の一校、Keck Graduate Institute(KGI)の下部組織という位置付けです。

通常、米国における新設の学校が大学組織としての認可を受領するには、第1期生の卒業を通して、組織を存続させる資金があることを証明する必要があります(例:NECHE認可基準)。ミネルバ大学は、KGIとパートナーシップを提携することで、1期生の卒業を待たずしてWASCによる大学機関の認可を取得しました。

今年の5月に1期生(106人)が卒業したことを受けて、ミネルバ大学は数年以内にKGIとの提携を解消し、ミネルバ大学を独立した大学機関にするべく組織改革を進めています。これは、ミネルバ大学の存続や運営が、Minerva Projectのビジネスの雲行きに左右されないものにするための手続きとも捉えられます。

 

しかし、ミネルバ大学が大学機関としての独立を果たし、認可面での他の学術機関の支えが無くなることや、ミネルバ大学のカリキュラムが一部他大学の学生でも受講できるようになることを受けて、「ミネルバ大学に進学する価値」を問われる機会も増えています。

それにより、ミネルバ大学の存在意義自体を否定されることもありますが、他大学も自校の授業やイベントをオンラインで動画配信していたり、MOOCSとして受講できる環境を整えていたり、と知識の一般化を推進しています。また その一方で、各大学に一般化されていない魅力があり、ミネルバもその例外ではありません。

2年目以降のプログラムはミネルバ大学 独自のもので、他の機関には提供されていません。私が専攻するビジネス学部のカリキュラムは、現学部長のJohn Percivalによって設計されたものです。彼は40年以上に渡り、ペンシルバニア大学 Wharton校で教鞭を執り、MBAプログラムのAssociate Vice Deanとして数々のMBAカリキュラムを監修しました。また、G.E.やI.B.M.などの企業経営陣向けの教育プログラムを開発した彼の経験を元に、ミネルバ大学のビジネスコースでは、理論の暗記に留まらない、実務の世界で適切な意思決定を下し、成果を出すための基礎体力づくりをしています。

加えて、ミネルバ大学は、学生が「Leader」「Innovator」「Broad Thinkers」「Global Citizen」となるために、学生のあらゆる面での成長を包括的に手助けする取り組みが整っています。各国現地の企業とのプロジェクト型学習を通して、実社会と接点を持ちながら教室の外でHCを応用し、認知ツールと基礎概念のより深い定着を図る産学連携の体制はミネルバ大学特有のもので、Minerva Projectが提供するプログラムには含まれていません。学部4年間で世界7ヶ国を廻る生活を通して文化的な繊細さを養えるのも、ミネルバ大学ならではの魅力です。

昨年のサンフランシスコでのWomen’s Marchには、推定6万人もの市民が参加した。都市との関わりを持つのは産学連携の文脈だけではない (photo credit to Haruna Katayama)

また、他機関が既存のカリキュラムにMinerva Projectのプログラムを付け足しただけでは、知識定着は不十分と言えます。それを念頭に置いた上で、認知スキルや基礎概念の応用を普段の授業から組み込み、その応用を評価するシステムを体系化することが必要です。

 

そもそも、ミネルバ大学は「高等教育を再定義する」という目標を掲げており、他の学術機関がミネルバの取り組みを真似ることを奨励しています。今後、他の教育機関が「知識定着率を向上させるカリキュラムのデザイン」や「双方向型のオンラインプラットフォーム」、「知識を応用する実践的なスキルの教授」を採用するのは、高等教育の再定義を目指すミネルバ大学として大変喜ばしいことです。個人的にも、各校の強みとミネルバのプログラムの強みを兼ね備えた学びの道が多くの学生に開かれるのを心から歓迎しています。


ミネルバ大学の学生の夏休みは、4ヶ月と他の海外の大学に比べても長いのが特徴です。私は夏休みの締めくくりに 友人を訪ねて フィンランドとバルト三国を旅しています。9月初旬には、早くも3年目の学生生活がベルリンで始まります。Capstone Projectと呼ばれる卒業研究のテーマを決める時期に差し掛かってくるので、これまでに体得した認知スキルを応用し、専門分野での知の実用化に取り組むのを楽しみにしています。

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