全世界で猛威を振るうコロナウィルス(COVID-19)の感染を防ぐべく、世界中の国が外出制限やロックダウンを宣言し、私たちの多くが今までの働き方や学習方法に変化を迫られました。マスメディアでは触れられないものの、「性に関連する分野」でも新しい生活様式が生み出されています。この記事では外出制限が生んだ性との新しい関わり方を、「リプロダクティブヘルス」「デート文化」「アダルトエンターテイメント」「セクシャルウェルネス」の大きく4つに分けて紹介します。
- 人権の両極化 — 自宅で中絶できる英国、中絶を「不要不急」とみなす他国
- マッチングアプリは「手軽な出会い」から「緩い繋がり」に
- 溜まる性欲、堅くなる財布の紐 — 無償で消費される「オカズ」の影に
- ひとりでも、相手とも。外出自粛で増えるベッドルームでの時間
人権の両極化 — 自宅で中絶できる英国、中絶を「不要不急」とみなす他国
家庭内での性暴力が世界的に増加する中、ロックダウンを制限した地域で避妊具の生産/流通が追いつかなかったり、外出が制限される中でアフターピルを処方してくれるクリニックに行けなかったりといったことを受けて、世界各地で望まぬ妊娠の増加が心配されています。
世界一のシェアを誇るコンドームメーカー、Karex Berhad社は、マレーシア政府のロックダウン発令により3月から4月中旬にかけて供給が停滞するとの見解を表明しました。また、流通障害により、ミャンマーの医療機関においてもリプロダクティブヘルス(性と生殖の健康)関連の商品が品薄になる事態が発生しました。
サプライチェーンの遅延・機能停止のみならず、「不要不急」の外出を控えるための政策もリプロダクティブヘルスに甚大な影響を与えています。テキサスを始めとした米国の8つの州では、公衆の安全を確保するという名目で、中絶のための来院を「不要不急」とみなす法案が提出されました。特にテキサスでは、州の法務長官が中絶禁止の支持を表明するなどし、度重なる裁判で一日置きに結果が覆される日々が続いたとのこと。結局中絶施術は法的に再開されることが決まったものの、緊急事態を口実に基本的な人権が危険に晒されました。
一方で、先見の明がある判断を下した例もあります。イギリスでは2年の期限付きで、クリニックに足を運ばずに電話やオンライン診療を通して中絶ピル(緊急避妊薬とは異なる)の法的処方をできるよう法律が改正されました。加えて、国内最大の産婦人科医ネットワーク、Faculty of Sexual and Reproductive Healthcareは、MirenaやT-safeなどのIUD(数年効能が持続する膣内挿入型の避妊具)を推奨着用期間より一年程度長く使用しても支障をきたさないとの声明を発表しました。
日本では、服用にタイムリミットがある緊急避妊薬さえドラッグストア(OTC)に並んでいないのが現状です。厚生労働省は初診でのオンライン処方を時限的かつ特例的に拡大しましたが、緊急避妊については「原則として」地理的に来院が難しい場合、または「女性の心理的な状態にかんがみて対面診療が困難である」と相談窓口と連携した医師が判断した場合に限り許可されています。また法的には、受診した女性は服薬指導の訓練を受けた薬剤師の目の前で内服することと、服用後3週間以内の対面診療が義務づけられており、「必要なときに迅速に」「負のレッテルを貼られることなく安心に」ましてや「家から出て自分と他人の命を危険にさらすことなく」緊急避妊薬を服用できるためには更なる法改正、そしてOTC化実現が急がれます。(※なお、性被害のケースは診療費・薬代が無料になります。同意のない性交渉・避妊への協力に欠ける性行為でアフターピルの処方を求める場合は各地域のワンストップセンターに連絡してください。)
COVID-19の波は、子どもを授かろうと励んできたカップルにも及んでいます。ホルモン値による妊孕力の測定サービスを提供するModern Fertilityが約2000人の女性を対象に行った調査によると、およそ半数もの卵巣所有者がCOVID-19をきっかけに妊活のスケジュールを変更したと回答しました。ウィルス感染による母子の健康面の心配のみならず、家庭を築くための経済的な不安が上位の理由に上がっています。
マッチングアプリは「手軽な出会い」から「緩い繋がり」に
「Hookup Culture」という言葉に象徴されるように、マッチングアプリは若年層の出会いをより手軽なものにしてきました。しかし、外出制限で実際に会うことができなくなり、今まで身体的な繋がりを求めていたユーザーが、他者との心の繋がりを求めるようになってきたようです。業界シェア一位を誇るTinderに加えて、OkCupid、Match、Hingeでは外出制限前に比べて20〜30%ほどメッセージが増加しました。OkCupidの調査では、一時的な身体の繋がりを求めるユーザーは20%ほど減り、長期的な関係を求めるユーザーが5%増えたと報告されています。また、Tinderはプレミアムユーザーに限定されていた「パスポート機能」を解除し、物理的距離に縛られることなく、誰しもが世界各国のユーザーと繋がれるようにしました(なお今月4日でキャンペーンは終了)。パートナーと離れて暮らす人のうち、42%がマッチングアプリをダウンロードしたとも言われています。将来的に会うこともないユーザーと交流しようとする動きからは、人と会えない中で心の繋がりを求める傾向が反映されています。
更に、外出制限の影響で、マッチングアプリユーザー同士でのビデオデート需要も急増しています。従来のビデオセックスだけではなく、お酒をデリバリーできる地域では、相手に自分と同じ銘柄のワインを届けて、画面越しで一緒にワインテイスティングを楽しむ人もいるとか。外出制限が長引けば、創造力が恋人選びの条件になるのかもしれません。MatchのCEOは、COVID-19収束後もビデオ通話機能を存続すると発表しています。「会う前にまずはビデオで」のハードルが下がったことで、ビデオデートは今後も真剣な交際を考える人の選択肢になるはずです。
溜まっていく性欲、堅くなる財布の紐。無償で消費される「オカズ」の影に
同時に、アダルトエンターテイメントの世界も、新たな方向に舵を切っています。ストリップなどアダルトコンテンツのライブ配信サービスを提供するCamSodaでは、新規の視聴者が前年と比べて倍増しました。それに続く形で、仕事を求めてオンラインのアダルトエンターテイメントサービスに登録する失職者や、対面での仕事ができないセックスワーカーが増えているようです。同様のサービスを提供するManyVidsでは、新規のモデル登録が前年比で69%増加しました。モデルは視聴者からのチップ(投げ銭)が主な収益源ですが、新規視聴者の多くはわずかな額しか払わないため、全体の視聴者数が増えてもモデルの増収には繋がっていないといいます。外出自粛により性欲は溜まり続ける中で、先行きの見えない経済に財布の紐は堅くなっているのが現状です。画面越しで人々の性生活を豊かにするセックスワーカーに思いを馳せ、彼らの身体的・精神的な労働に対価を払うことが望まれます。
一定の収入を確保できるOnlyFans(サブスクリプション型のアダルトサービス)では3月のたったひと月で370万人もの新規ユーザー(うちクリエイターは6000人)を獲得しました。アダルトエンターテイメントの世界に足を踏み入れる個人が増える中、COVID-19以前よりセックスワークに従事してきたJessie Sage氏は警鐘を鳴らしています。先日開催されたWomen of SexTech Conferenceでは「この世界に入るのは簡単でも、活動を続けていくには様々なリスクが伴います。また、一定の利益をあげるには相当のコミットメントが必要とされます」と発信しました。実際に、COVID-19はセックスワーカーにとって政策面で向かい風を浴びせているとも言えます。性的な仕事に従事している国民は、COVID-19で経済的な被害を受けた米国民に支給される給付金の対象外になっています。併せて、3月上旬にはE2E暗号化を廃止しかねない法案(通称「EARN IT」)が米国議会で提案され、セックスワーカーの言論と表現の自由が脅かされているのが実態です。
ひとりでも、相手とも。外出自粛で増えるベッドルームでの時間
先述の通り「手軽な出会い」が減ったためか、Durex社によると「コンドームの需要が英国で大幅に減っている」とのコメント。実際に外出制限の影響で性行為が減ったかは、まだ調査の途中であるものの、アダルトビデオへのアクセス数はうなぎのぼりです。アダルトビデオ配信サイト、PornHubでは先月23日までの1ヶ月弱もの間 プレミアム会員向けコンテンツを無料ユーザーに解禁したこともあってか、過去1ヶ月半の間のアクセスが前年比の10〜40%増加しています。
エンターテイメントとしての消費のみならず、何もしない時間ができたことで今までの性生活や恋人との関係を見直す人も増えています。大人の性教育アプリを提供するEmjoyは、欧州でのロックダウン宣言後にダウンロード数が45%増加。同サービスの利用時間は160%も上昇しました。また、セックスやマスターベーションのマンネリ化を打破しようと、いつもの夜のルーティーンに新しいセックストイを足す消費者も増えているようです。Blushのマーケティング部長を務めるDucky Doolittleによると、セックストイ市場におけるバレンタインの売り上げは1年の収入の20%を占めるとのこと。MYHIXELでは、そんな繁忙期である2月の売り上げをも凌駕し、先月比5倍に及ぶ売り上げを叩き出しました。ハイエンド層向けセックストイの重鎮と言われるLELOもその例外ではなく、例年比の56%の増収を見込んでいます。離れた相手を繋いで遠隔から操作できる、遠距離恋愛向けのスマートバイブレーターの需要増加も期待されますが、テクノロジーが私たちの理想に追いつけているかは、また別の問題のようです。
人と直接会って肌の温もりを感じられない日々が続き、今までの性との関わり方を見つめ直す機会が到来しています。時間に余裕のできた方は、以下の7つのことを意識しながら、新しいことに挑戦してみるのもいいかもしれません。
